前略     南波誠さま

   時候の挨拶など苦手な私ですが、何故かこのお彼岸の時期にあなたにお便りを出したくなりました。
   それはきっと今私が、ここ香港にいるからなのだと思います。
   あれからもう19年になりますね。早いものです。1997年の3月から4月に開催されたSAIL OSAKA レースのことです。私たちは一緒にESCAPE ONE に乗ってレースに出ましたね。香港をスタートして沖縄へ向かう第1レグと、鹿児島をスタートして大阪へと向かう第2レグ。その第2レグがあなたの最後のレースとなってしまいました……。

   1987年にあなたに初めて会って以来、ヨットは私にとって仕事となり、勝つためにする勝負事となりました。でもあなたはいつも、それだけやないデ、ヨットってもっとオモロイもんや、ヨットってもっとカッコええもんや、とおしえてくれました。そしてホントにあなたといるといつも笑いが絶えませんでした。
   今でも忘れられないのは、ウィットブレッドと2回目のアメリカ杯挑戦が終わった1995年、私が酒の飲み過ぎで東京の病院に入院していた時、あなたは誰かに聞きつけて見舞いに来てくれて、涙と鼻水を流しながら私をレースに誘ってくださったことです。私はその後酒を暫くやめて、1年半に渡ってあなたとアメリカ東海岸やハワイのサーキットを回らせてもらいました。あれは私にとって最も楽しかった記憶の一つです。

   その直後でしたね。SAIL OSAKAに出たのは……。バシー海峡でかなり吹かれて航海機器を失いながらもトップフィニッシュした第1レグの後、何故かあなたはとても疲れていました。いつもの辛辣でオモロい冗談が出てきませんでした……。そして運命の第2レグ。突然に吹き上がってきた、黒潮とは逆方向の強風が生み出した物凄い横波を受けたあなたは舵の上を吹き飛ばされた……。もし私が舵を持っていたら私が飛ばされていたことでしょう。それでもあなたはスタンションに捕まって頑張りましたが、あと数秒、あと50センチ、私の手が届きませんでした……。あの時のあなたの、私に懇願するような眼も忘れることはできません。
   そして、あなたは消えるように猛り狂う海の中に沈んでいきました……。

   私は今、外洋レーサーであるチームベンガルで太平洋の色々なレースに出ています。トランスパックやシドニーホバートなどに自力でヨットを回航してレースに出ているのです。そしてなんと、あんなにレース以外の航海が嫌いだったこの私がそれらのほとんどの回航にも乗っているのです。信じられないでしょうね…。2012~2013年にはシドニーホバートとトランスパックを連続して参加するために蒲郡~シドニー~ウェリントン~タヒチ~ハワイ~LA~ハワイ~小笠原~蒲郡という2万マイルの海の旅をしてきました。私は日本チャレンジに選んでもらってアメリカ杯というマッチレースでヨットを始めましたが、本当は外洋のレースや外洋の航海が好きだったみたいです。だから、ウィットブレッドに出ていなかったら、あなたが東京の病院で私を誘ってくれなかったら、ここまでヨットを続けていなかったでしょうね…。

   今いるチームで私は楽しくヨットを仕事に出来ています。今回はChina sea raceといって香港からフィリピンのスービックというところまでのレースです。昨年末のシドニーホバートの後、ヨットを回航して香港まできたのです。
   このチームにはあなたがよく知っている懐かしい顔もたくさんいます。九州の高木さんに長尾に伊藝がいます。長尾は1人、伊藝は3人の子持ちですよ!もちろん奥さんもいます…笑。そしてニッチャレでテンダーボートのアシスタントだった平野もいます。彼はSAIL OSAKAにこのチームのトレーニーとして乗って本格的に外洋レースを始めたのです。それに、あなたは会ったことがないと思いますが、大学のヨット部の後輩もいますよ。彼はチームのナビゲーターでとても真面目な人間です。随分とあなたとはキャラが違いますが、我が道を行くところはあなたと似ているかもしれません。校風なのでしょうか?
   また、このレースが終わったらスービックから宜野湾までヨットを回航して、4月29日スタートの沖縄東海レースに出場します。このレースは2年に1回あるレースですが、チームベンガルは2連覇中で今回は3連覇がかかっています。途中で、あなたが消えてしまった室戸岬沖を通るはずなので、あなたの好物だったコカコーラを海に流すつもりです。楽しみにしていてください。

   寂しがり屋のあなたのことだから、周りに友達が少なくて泣いているかもしれませんが、あなたが早く逝きすぎたから仕方ありません。私もまだまだそちらにいくつもりはありませんから、またオモロいネタでも吟味して、気を長くして待っていてください。

   私も自分勝手にかなりオモロくヨット人生を歩いてきたつもりですが、もし、あなたが今もこちら側にいたら、もっともっとオモロいヨットにご一緒出来ただろうな・・・なんて思い、ついこのような手紙を書いてしまいました。

 「  ホンマに、ヨットは、最高やでー」
   ホントにその通りですよ。

不尽       サケダイスキ

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